異種格闘技戦のルールあれこれ
異種格闘技戦を主題にした漫画作品は、『修羅の門』や『グラップラー刃牙』などを筆頭に、本当にたくさんあります。
空手、柔道、プロレス、ムエタイ、中国拳法、サンボ……世界中のさまざまな格闘技の専門家たちが、競技の枠を越えて戦う。最強の格闘技とは何なのか。自ら格闘技の道を歩む者、また格闘技を愛する者にとって究極ともいえる質問ではないでしょうか。
最強の格闘技を決めるためには、ひとつ大きな問題があります。それは「ルール」です。
できるかぎり制限を排除しようとしたのが「総合格闘技」ですが、「総合格闘技」自体、多種多様な団体とルールが存在し、統一されていません。また「総合格闘技」にはラウンド制や攻撃手段の制限などがあり、どんな格闘技に対しても不公平がないのかと問われれば、疑問が残ります。
では漫画の中の異種格闘技戦は、どのようなルールで戦っているのでしょうか。
『グラップラー刃牙』では「武器の使用以外すべてを認める」(地下闘技場編、最大トーナメント編)という、非常にアバウトなルールで戦っています。そもそもルールを理解するとは思えない生物(夜叉猿Jr.)が選手として登録されており、ルールの存在意義に甚だ疑問が残ります。
グラップラー刃牙完全版 1―BAKI THE GRAPPLER (少年チャンピオン・コミックス)
- 作者: 板垣恵介
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2007/12/07
- メディア: コミック
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『修羅の門』では第二部で、全日本異種格闘技選手権が開催されています。こちらも時間無制限で決着はKOかギブアップのみ、禁じ手なし、ダウン相手への攻撃は自由という、かなり喧嘩ライクなルール。実際に不破北斗が龍造寺徹心の目をえぐっていますが何のおとがめもなし。レフリーはいますが、試合中にはほとんど何もしていませんません。一方で、場外ラインから故意に一歩でも外へ出た場合は即失格という厳しさも。
(第四部ヴァーリ・トゥード編については、『総合格闘技漫画』のくくりで書くときに回したいと思います)
- 作者: 川原正敏
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1987/10/08
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『CYNTHIA_THE_MISSION』の学園祭で行われた5対5対抗戦もかなりのノールール具合。凶器の使用以外、一切の禁じ手なし。決着は本人によるギブアップのみという危うさ。リングドクターはいますが、試合を裁くレフリーもなし。もし実際にこのルールで異種格闘技戦を行えば、死人が出る確率が極めて高い気がします。
第一試合こそ「総合格闘家VSボクサー」という、異種格闘技戦らしいカードですが、華道やら呪術やら弁護士やら謎の暗黒仮面やら邪眼やらが入り乱れる、血みどろの展開。何を言っているのかさっぱり伝わらないと思いますが、確かにあらゆる意味で異種格闘戦でした。学園祭で見世物にできるような生ぬるさではございません。
CYNTHIA THE MISSION 1 (ZERO-SUM COMICS)
- 作者: 高遠るい
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2005/02/25
- メディア: コミック
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『ツマヌダ格闘街』は、正確に言うならば「ストリートファイト」ですが、バラエティ豊かな格闘技が登場しており、今回は異種格闘技戦の範疇に入れることにします。こちらは前述の3作品と違い、非常に細かくルールが設定されています。本来ならば最もルール無用なはずの「ストリートファイト」にきっちり規則が制定されているのが面白い。
ルーキーリーグの基本ルールでは、「噛みつき、目つぶし、故意の金的攻撃は禁止」「ダウンした相手への攻撃は禁止」「勝敗はギブアップまたはダウンした状態での10カウント。その他レフリーが試合続行不可能と判断した場合に決定される」となっています。ダウンした相手への攻撃は禁止されているので、寝技を主体に戦う格闘技には不利なルールですね。
あくまでも「ストリートファイト」ですので、アスファルトやコンクリートなど硬い地面に叩きつけられる危険がありますが、ファールカップやグローブなどの着用義務、新人選手はヘッドギアの装着など安全への配慮がなされています。
特別な試合形式として、選手双方が了承すれば「エクストラルール」という、一撃決着(ショウダウン)のルールで戦うことも可能です。
また『ツマヌダ格闘街』では厳密なルールを運用するため、レフリーの権限がかなり大きい模様です。さすがに自治体が絡んでるだけあって抜かりはありません。
- 作者: 上山道郎
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2007/03/09
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『アルティメットガチンコ異種格闘技王伝説』では、異種格闘技戦のルールに珍しい考え方を導入しています。統一ルールで戦うのではなく、「相撲取りは相撲のルール、ボクサーはボクシングのルールで戦う」ということです。決着はギブアップもしくはレフリー(ドクター)ストップのみ。ダウンの概念はなく、時間無制限の1ラウンド制。
「自分の格闘技のルールに従って戦う」というのは、自分の所属する団体の試合で禁止されている技を使って故意に相手に深刻なダメージを負わせてはならないということ。例えばフルコンタクト空手家は顔面への拳の攻撃を故意に放って相手に大きなダメージを与えると、即刻反則負け。むこう三年間アルティメットガチンコに出場できなくなります。ダメージが軽度でかつ不可抗力の反則攻撃は、ペナルティとして「1分間の攻撃禁止」状態になります。ただし「故意か不可抗力か」の判断は選手自身の自己申告のため、選手のプライドに頼る部分があります。また「自分の所属団体に準ずるルール」というのは曖昧な部分も多く、競技によって有利不利の差がありすぎるという問題も。
ほかに特徴的なのは、レフリーには選手の生命を守るために一刻も早い判断が求められるので、医師の資格を持つ者がレフリーを務めることが決まっていること。作品内では現役外人部隊軍医がレフリーをしています。
アルティメットガチンコ 異種格闘技王伝説(1) MiChao!KC (KCデラックス)
- 作者: 高橋伸輔
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/07
- メディア: コミック
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今回取り上げたのは、異種格闘技戦を取り扱った漫画のごく一部ですが、それだけでも「ルール」という観点で比べてみると、作品の狙いや同ジャンルの作品との差異の図り方がわかって面白いなぁと。
しかし真の意味で、この作品に勝る“異種”格闘戦は存在しないのかもしれません。
- 作者: 相原コージ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2005/02/28
- メディア: コミック
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(山科)