鬼頭莫宏『のりりん』

また新たに自転車漫画の連載が開始されました。『なるたる』『ぼくらの』の鬼頭莫宏さんによる『のりりん』がイブニング2010/1/12号から新連載されています。鬼頭さんは以前から、作品の中にしっかり描写した自転車を登場させ、仕事の合間の息抜きはローラー台という、筋金入りの自転車好き。巻頭カラーのキャッチコピーは「車じゃない。バイクじゃない。大人の青春は自転車(ロードレーサー)から始まる!」。アラサ―青年のロードバイクライフが描かれるようです。

なるたる(1) (アフタヌーンKC)

なるたる(1) (アフタヌーンKC)

ぼくらの 1 (IKKI COMIX)

ぼくらの 1 (IKKI COMIX)

のりりん』第一話 チャリのススメ

主人公の丸子一典(28歳)は、「チャリに乗ってるヤツは死ねばいい」と公言する自転車嫌い。峠の走り屋で、車道を走っている自転車がいれば、クラクションを鳴らして無意味に威嚇する。ところが自分のミスで、ロードバイク接触事故を起こしてしまった。幸い、自転車に乗っていた少女の回避によってけがはなかったが、自動車のボンネットとロードバイクのホイールが壊れてしまった。減点が積み重なっていたせいで警察を呼びたくなかった一典を察し、その少女・織田輪は「母親に事情を説明してくれればいい」と言い残して去っていく。

輪の家に謝りにきた一典に対し、輪の母親は「男は30越えたら自転車ね」と、しまってあった古いロードバイクに乗ることを勧める。突然の意味不明な申し出に一典が拒否すると「半分は娘に負担させるが、事故にあったカーボンホイールは買い直しで50万円。フレーム(ロータス製)もクラックが入っていたら、相応の金額になる」と脅し、「この自転車に乗れば5万円引き」と誘う。

しかし一典は「自転車に乗っているヤツが嫌い。とにかく気持ち悪い」と返答し、頑なに拒絶するのだった。すると、輪の母親は一典から自動車のキーを受け取り、通りすがりの軽トラの荷台にキーを投げ込んでしまった。「ロードで追いかければ、追いつけるわよ」と言われ、仕方なく一典は「死ね!」と悪態をつきながらロードバイクにまたがることに。

週刊少年サンデー」で連載中の『ツール!』(大谷アキラ)では、主人公が“ロードバイクを知っている”という立場で始まりましたが、本作は“自転車について知らない”に加えて、“自転車乗りが嫌い”というネガティブな感情が入っています。“自転車乗りが嫌い”という設定が面白いのですが、これはイブニングの読者層が反映されているのかもしれません。自転車ブームと同時に、スポーツ自転車に関する交通トラブルも激増している中、自転車に対して嫌悪感や憎悪を抱く人も増えているはずでしょうから。

自転車乗りがなぜ気持ち悪いのかを主人公の一典が語るシーンがあるのですが、自転車乗りが本気で腹を立てそうなぐらい“痛いところ”を突いています。従来の自転車漫画にはありえない、ある意味“すごい”シーンです。私自身、このシーンを読んで、反省させられる部分もありました。一典の自動車と輪が事故を起こすシーンは、ロードバイクに乗ってる人ならばヒヤリとする“あるあるネタ”で、自転車乗りの心理や現状など、実際に自転車に乗っている鬼頭さんならでは。

自転車嫌いのアラサ―青年がどのように自転車にはまっていくのか、楽しみにしたいと思います。
(山科)