自転車マンガFile008 のりりん

雑誌「イブニング」で連載中。
なるたる』『ぼくらの』の
鬼頭莫宏氏による
自転車マンガ『のりりん』。

のりりん(1) (イブニングKC)

のりりん(1) (イブニングKC)

のりりん(2) (イブニングKC)

のりりん(2) (イブニングKC)

連載が始まった当初は、
SF色が強く、ハードな展開が持ち味で、
要は“人がたくさん死ぬマンガ”ばかり描いていた
イメージのある鬼頭氏が! と、ビックリさせられた。

しかし、鬼頭氏は以前から、
作品の中にしっかり描写した自転車を登場させ、
仕事の合間の息抜きはローラー台という、
筋金入りの自転車好きだったのだから、
この作品が描かれたのも必然だったのかもしれない。

連載開始時のキャッチコピーは
車じゃない。バイクじゃない。
大人の青春は自転車(ロードレーサー)から始まる!
」。



主人公丸子一典の年齢は28歳。
以前紹介した『かもめ☆チャンス』と同じ。
自転車初心者なのも同じだ。

しかし、丸子くんは自転車を憎んでいる。
ここが新しい。

一話のあらすじは……

丸子一典は、「チャリに乗ってるヤツは死ねばいい」と公言する
自転車嫌い。峠の走り屋で、車道を走っている自転車がいれば、
ラクションを鳴らして無意味に威嚇する。

ところが自分のミスで、ロードバイク接触事故を起こしてしまった。
幸い、自転車に乗っていた少女の回避によってけがはなかったが、
自動車のボンネットとロードバイクのホイールが壊れてしまった。
減点が積み重なっていたせいで警察を呼びたくなかった一典を察し、
その少女・織田輪は「母親に事情を説明してくれればいい」と
言い残して去っていく。

輪の家に謝りにきた一典に対し、輪の母親は
「男は30越えたら自転車ね」と、しまってあった
古いロードバイクに乗ることを勧める。
突然の意味不明な申し出に一典が拒否すると
「半分は娘に負担させるが、事故にあったカーボンホイールは
買い直しで50万円。フレーム(ロータス製)もクラックが入っていたら、
相応の金額になる」と脅し、「この自転車に乗れば5万円引き」と誘う。

しかし一典は「自転車に乗っているヤツが嫌い。
とにかく気持ち悪い」と返答し、頑なに拒絶した。

すると、輪の母親は一典から自動車のキーを受け取り、
通りすがりの軽トラの荷台にキーを投げ込んでしまった。
「ロードで追いかければ、追いつけるわよ」と言われ、
仕方なく一典は「死ね!」と悪態をつきながら
ロードバイクにまたがった。

主人公は“自転車について知らない”に加えて、
“自転車乗りが嫌い”というネガティブな感情が入っている。
“自転車乗りが嫌い”という設定が面白いのだが、
これはイブニングの読者層が反映されているのかもしれない。

自転車ブームと同時に、スポーツ自転車に関する
交通トラブルも激増している中、
自転車に対して嫌悪感や憎悪を抱く人も増えているはずだから。


自転車乗りがなぜ気持ち悪いのかを、一典は語る。
自転車乗りが本気で腹を立てそうなぐらい
痛いところ”を突いており、
従来の自転車漫画にはありえない、
ある意味“すごい”シーンとなっている。

現在はコミックが2巻まで発売中。
あるロードバイク乗りとトラブルになった主人公が、
何気に隠し持った負けん気と体育会系の気質に火が着き、
自転車で勝負することになった……という話が進行中。

リアリティのある作品なだけに、
あっさり勝てる!とか、
すごい必殺技がある!とか、
人間離れした力で走る!とかは無い。
作中でも、「走った距離=強さ」と言っているし。

ようやく真面目に自転車に乗る気になった主人公が、
今後どうなっていくのかに期待だが、
主人公の悩みとは無縁に、お気楽に自転車を楽しんでいる友人たちが
「自転車の楽しさにはまり始めた人」として描かれており、
気持ちが分かる部分もあって、見ていて面白い。

全体的に散りばめられた
自転車乗りが「あるある!」もしくは「痛い!」
そして「すいません……」と思うエピソードにも注目。
(山科)