シャカリキ!

シャカリキ! (7) (小学館文庫 (そB-18))

シャカリキ! (7) (小学館文庫 (そB-18))

先日、とある自転車イベントに行ってきて、大学生の方とお話いたしました。「自転車に乗り始めたきっかけは?」という話題になったのですが、最近、ロードレーサーに乗り始めた彼はキラキラと、まるで自転車に乗った野々村輝のように目を輝かせてこう答えました。「『シャカリキ!』のせいなんですよ!」と。

8歳で自転車を買って貰った直後、東京から関西に引っ越してきた野々村輝。ところが新しい街は“坂の町”と呼ばれるほど坂道ばかりの土地だったのだ。極度に負けず嫌いな性格のためか、自転車の利用者がいない街でたった一人、坂に立ち向かう輝。坂は輝の挑戦を何度も払いのける。周りに馬鹿にされながらも、ボロボロになりながらも、決して輝は諦めようとはしなかった。そして中学生になる頃には、ほぼ坂を登りきるまでに成長していた。
中学3年の夏休み前に、ライバルとなる由多比呂彦と運命の出会いを果たす。それまでは自転車競技に興味のなかった輝は、自転車競技の名門校・日の本大学附属亀ヶ丘高校入学を目指す。亀高入学後は自転車部に加わり、部員であるユタ・鳩村らとの切磋琢磨を通じ、また事故によって負傷しながらもロードレーサーとして成長していく。

連載が終わって10年以上、それこそ僕が大学生ぐらいのときに読んでいた漫画だ。そんな古い漫画が今もその魅力に取り付かれた読者を、自転車の世界に引き込んでいることに素直に驚いてしまう。また、同時に「『シャカリキ!』にはまったのに自転車に乗らないのは、もったいないよ!」とも思うのだ。

輝は由多をはじめ、鳩村や酒巻、ハリスなどさまざまな強敵と出会う。しかし、いつだって輝のライバルはただ一人だけであった。それは「自分自身」。この「自分自身」と戦うということが自転車競技の魅力だと私は思っている。

長い坂を駆けているとき、思わず脚をつきそうになる。「お前はよくやった。もういいじゃないか」 自分自身の許しの声が聞こえてくる。そんなとき、鼻水やよだれをこぼしながら無理をしてペダルをさらに踏む。永遠に続くのではないかと思う坂道。もう呼吸ができないぐらい苦しい。なんのために俺はがんばってるんだ。でも、もう少しだけ……

視界が一気に開け、混濁した意識が一気にクリアされる。頂上だ。その瞬間、今まで苦しかったことが嘘のように消え去り、胸の奥に心地よい風が流れ込む。なんとも言えない充実感と心地よい疲労感を味わえるひと時。そうだ、この瞬間のために走ってきたんだ!

シャカリキ!」はいつでも、どこでも、どんなときでも、読むだけで坂を上りきったあの感覚が味わえるという点で私の中では永遠に名作なのだ。そして、この漫画はきっとこれからも、たくさんの「テル」を生み出していくのだろう。

さあ、ワタクシも自分自身の、なまりきって坂ですぐに力尽きる脚と、ヘタレた根性を叩き直すために、ひとっ走りしてきます。

「"負けへん"だけで勝てるほど やわな坂(あいて)やあらへんッ!!!」(『シャカリキ!』より、野々村輝のセリフ)